奈良時代の関東系移民集落−御駒堂遺跡(栗原市志波姫)
2015.01.04 Sunday 23:46
栗原市御駒堂遺跡の現地説明会が2014年8月23日に開催されました。

御駒堂遺跡
奈良時代に関東からの移民の人々が住んだ住居跡が発見されたとのニュースに、多くの見学者が集まりました。
遺跡名:御駒堂遺跡(おこまどういせき)
所在地:栗原市志波姫南堀口
調査主体:宮城県教育委員会
調査原因:国道4号線築館バイパス建設工事
調査期間:平成26年7月7日〜10月3日
調査面積:4400平方m

御駒堂遺跡は縄文時代から江戸時代にかけての集落跡で、考古学や古代史の研究者の間では「奈良時代の関東系移民の集落」として良く知られていますこれまでに昭和51・53年に行なわれた東北自動車道建設に伴う発掘調査などで古墳時代から平安時代にかけての竪穴住居跡が50軒以上発見されています。

このうち奈良時代(8世紀前半)の住居跡は、カマドの構造や出土した土器の特徴が同時期の関東地方の集落と類似していたことから、関東地方から宮城県北部に移住した人々(移民)が居住したと考えられました。当時の律令国家がその支配領域を広めるため、関東地方から東北地方に移民を送り込んだことは文献から知られていましたが、この発見を契機として移民の集落が確認されるようになり、東北地方の古代史研究を飛躍的に進めた記念碑的な遺跡なのです。

御駒堂遺跡
今回の調査区を北側から見た様子です。古代の竪穴住居跡5軒が見つかり、このうち3軒は奈良時代前半のものです(現地説明会後の調査で5軒すべて奈良時代前半と判明)。このほか、調査区中央で縄文時代の落とし穴、北西部(写真手前)で江戸時代の墓地が見つかっています(現地説明会後の調査で旧石器も出土しているそうです)。

御駒堂遺跡
奈良時代(8世紀前半)の竪穴住居跡の説明。床面に炭化した木材があり、焼失した住居のようです。住居跡を間近に見ながらの調査員の分かりやすく熱のこもった説明に参加者が聞き入りました。

御駒堂遺跡
住居跡の様子です。4本の柱で屋根を支える構造で、北壁にカマドが設けられています。

御駒堂遺跡
カマドは住居の壁の一部を掘り込み、内側に白色の粘土を貼り付けて構築しています。当時の関東地方のカマドと同じ構造で、東北地方のカマドに一般的な長く延びる煙道(屋外に煙を出すためのトンネル)が見られません。中央に立っている棒状の石材はカマドにかけた甕を支える支脚です。

御駒堂遺跡
真上から見た様子です。住居の壁を外側にU字形に掘り込んで作られています。貼り付けた白色粘土の一部は火を受けて赤く変色しています。

御駒堂遺跡
こちらは別の住居に設けられたカマドです。煙を屋外に排出するための煙道が長く延びています。ただ、火を焚く場所(支脚のある場所の周囲)が住居の壁より奥に位置していることから、これも純粋な東北地方のカマドとは異なり、関東地方の要素を持っています。

御駒堂遺跡
縄文時代の落とし穴も発見されました。小判形で底面に杭を立てた穴のあるもの(左写真)、細長い溝状のもの(右写真)の二つのタイプがあります。

御駒堂遺跡
小判形タイプの落とし穴は数mおきに列をなして掘られていました。縄文時代には狩りの場として利用されていたようです。

御駒堂遺跡
調査地点の丘から北側には、迫川を挟んだ対岸に入の沢遺跡や伊治城跡のある丘が見えます。入の沢遺跡は古墳時代前期(4世紀)の防御性集落跡、伊治城跡は奈良時代(8世紀後半)に律令国家が陸奥国経営の最前線拠点として造営した城柵跡です。一帯は古墳時代から古代にかけての重要遺跡が点在しているエリアです。

御駒堂遺跡
出土した遺物です。須恵器や土師器が出土しています。

御駒堂遺跡
奈良時代の土師器の坏(つき)には、東北地方に一般的な内側が黒いもの(写真右)、関東地方で一般的な内側が黒くないもの(写真左)の二つのタイプが見られます。

御駒堂遺跡
土師器の甕(かめ)も、東北地方に一般的な下膨れ形のもの(写真左)、関東地方で一般的な下が窄まるもの(写真右)の二つのタイプが見られます。

今回の調査によって、御駒堂遺跡で発見された奈良時代(8世紀前半)の移民の住居跡は28軒(現地説明会後の調査で30軒と判明)になりました。奈良時代に律令国家がどのようにして東北地方にその勢力を拡大させていったのかを具体的に解明する上で重要な遺跡であることが改めて確認されました。

【参考文献・関連資料】
栗原市御駒堂遺跡 平成26年度発掘調査現地説明会資料(平成26年8月23日)|宮城県教育庁文化財保護課

<御駒堂遺跡>

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